講義日誌 yasuyuki shinkai

明治学院大学文学部フランス文学科 慎改康之

「隠れた奇跡」

こんにちは。たまには更新しようと思いながらも適当なネタがみつからなかったので、引用など。後期、どこかの授業で扱うかもしれません。


「・・・明け方近く、彼はクレメンティヌムの図書館のホールのひとつにひそんでいる夢をみた。黒めがねをかけた司書が訊いた。何をお探しですか?フラディークは答えた。神を探しています。司書は言った。神はクレメンティヌムの45万冊のなかの1冊のなかの1ページのなかの1字のなかにおられます。わたしの父とわたしの父たちの父たちはその文字を探してきました。わたしもそれを探しているうちに盲目となったのです・・・


「・・・彼はその仕事を成就するために、神に1年の猶予を乞うた。そしてその全能の力が1年を授けたのだ。神は彼のために隠れた奇跡を行われたのだ。ドイツの弾丸はさだめられた時間に彼を倒すだろう。しかし彼の意識のなかでは、命令とその命令の実行とのあいだに1年が経過するだろう。困惑から自失、自失から諦め、諦めから唐突な感謝へと彼の心は移っていった・・・」


ホルヘ・ルイス・ボルヘス、「隠れた奇跡」、『伝奇集』、鼓直訳、福武書店、1990年。